これは
クルミド王国とトマト王国とが
友好を深める
まだ前のお話。
クルミド王とトーマス・トマティーヌⅢ世は
「森の王国サミット」に出席していました。
各国の王様があつまる
7年に一度の機会です。
なにしろ、集まるのはみんな王様。
まち中に警官があふれ
ゴミ箱というゴミ箱は撤去され
厳重に厳重を重ねた警戒……
と想像されるかもしれませんが
そんなことはありません。
森には
戦争という言葉も、テロという言葉も
ありませんからね。
いたっておだやかで和やかな
みなが笑顔のサミットなのです。
この年
クルミド王とトーマス・トマティーヌⅢ世は
2人とも「人材育成部会」に参加していました。
王国を支える若い人材を
いかに育てるかについて
意見交換をします。
トマ「おっほん。わが国には、将来有望な王子がおる。
その名も、トマト王子じゃ」
クル「(わ、そのまんま…)
おお、それはうらやましいですな。
なにせわが国には王子はいないものですから」
トマ「おっほん。そういうお話でしたな。
ただ貴国には、非常に優秀な
外交官がいるという噂を耳にしたことがありますぞ。
名が確か、イカダ…とか」
クル「ああ、イマダのことですな。
イマダ=マシロヒは、職人の息子で
いまは当国の外交官を務めてくれています。
確かに彼は優秀な男です」
トマ「おっほん。クルミド王よ、どうじゃな
わしにいい考えがある。
当国のトマト王子と、貴国のイマダとで
何か共同プロジェクトに取り組ませてみては」
クル「共同…プロジェクト…、ですか?」
トマ「おっほん。そうじゃ。
将来有望な若者同士
刺激し合えれば、きっとそれは
またとない成長の機会となる」
クル「なるほど。それはいい考えですな。
さすがトマティーヌ王!」
トマ「おっほん。そりゃあそうじゃ。
はてさて、そうじゃな…。
うむ。こういうのはどうじゃ」
クル「はい」
トマ「『世界で一番おいしいトマトジュースをつくれ』
というお題を出すのじゃ。
そのためのトマトは、当国から提供しよう」
クル「なるほど!
そして2人に取り組ませると」
トマ「おっほん。そうじゃ。
これは簡単なお題ではないぞ。
2人とも苦労するじゃろう」
クル「本当ですな。
ですがあの2人であれば
きっと粘り強く、取り組んでくれることでしょう」
そして2013年6月
クルミド王国ではじまったのが
トマトジュースづくりだったのです。
「トマト嫌いなちいさなキミや
嫌いなまま、おとなになってしまったキミも楽しめるような
美味しいトマトジュースをつくって欲しい」
「ワシを、お店に来るみんなを
あっと驚かせるようなトマトジュースを
つくってくれたまえ」
などなど
年によっては
トマティーヌⅢ世からの特別なリクエストも届きましたから
トマト王子とイマダによる
「世界で一番おいしいトマトジュースづくり」は
それ以来、年に一度の一大プロジェクトとなりました。
みなさんは
「世界で一番おいしい」って
どんなトマトジュースだと思いますか?
うーん
考えこんでしまいそうですね。
それは、王子もイマダも同じでした。
ですので、年によっては
目の前に大量に積まれた赤いトマトを前に
2人とも、途方にくれてしまうこともしばしばでした。
でも2人の王様の見る目がまちがっていなかったのは
王子もイマダも
あきらめることを決してしなかったという点でした。
それにしても
トマティーヌⅢ世
話し言葉は回文でなくても大丈夫なんですね。
(つづく)