<第一話はこちら>
しりとりといっても
彼らのしりとりは
あなたの知ってるそれとは
ちょっと違っているかもしれません
しりとりの「り!」と
はじまると・・・
リアトリス・ムクロナータ (植物の名前)
タンジェロ (みかんの名前)
ロンズデーライト (結晶の名前)
トロピタオレンジ (みかんの名前)
シェルピンク (色の名前)
黒南風 (くろはえ、風の名前)
・・・
え、なにそれ?ってなってしまいそうな
ことばたちのオンパレード
自然にまつわることばは特に。
そして、チャンスを見つけるたびに
なんとかして
みかんの名前を言おうとするのが
みかん村の人たちの
大好きなしりとりのやり方
ですので
いつもそのしりとりには決着がつかず
ひとしきり楽しんで
日が暮れるとやめにするというのが
この村のいつものことでした
そんな、みかん村を
クルミド王がおとずれたことが
一度だけありました
クルミド王は
年に一度
世界の見聞を広めるために
クルミドの森の仲間たちと
旅へと出るのがならわしで
その年は、船をつかっての旅に
出たのでした
クルミド王の旅に
旅程はありません
まさに風まかせ
その時に吹いた
東よりの風に気持ちよく吹かれ
たどり着いたのがみかん村だったのです
クルミド王とその一行を見つけた
みかん村の人々は驚きました
だって、海に浮かぶちいさな島
みかん村へとたどり着く旅人など
まずいなかったものですから
クルミド王の
高い帽子
立派な口ひげ
黒光りする長靴
どれもこれもが
はじめて見るものばかりで
村人は最初、おそるおそるでしたが
やっぱりそのあふれる好奇心を
おさえることはできません
先に声をかけたのは村人のほうでしたが
どちらも自然を愛する人々
お互いがお互いのことを好きになるのに
ほとんど時間はいりませんでした
そうなると、そうそう
やっぱりそうですね
誰が言い出したものか
自然と「しりとりをやろう!」ということになりました
クルミドの森の人々だって
しりとりくらい、知っています!
受けて立つということになりました
しりとりの「り!」
りす
翠雨 (すいう、雨の名前)
うま
マーコット (みかんの名前)
とり
リグスティクム・ムテルリナ (植物の名前)
仲人協会
一角獣座 (星座の名前)
ざるそば
どっちがどっちの答えか
すぐにわかりますね
クルミドの森の人々のなかに
ひとりだけへんな人がまじっているようですが…
信州ゆかりの人までいるようです
事態が変わったのはこのあと
みかん村の一人が
自信満々に「はるか!」と答えました
これまたみかんの名前です
その村人は特に
そのさわやかな甘みが大好きでしたので
まってましたとばかりに
そう答えたのです
順番は、クルミド王でした
か、か、か…
少しなやんだあと
口は自然とこう言っていました
カシグルミ
そうですね
クルミドの森の人々なら
だれでも知っている
あの名前
さあ次は…と
みかん村の人々の顔を覗き込んだところ
あれれれ
どういうわけか
みなの顔色が変わっていきます
み、み、み…
表情はちょっと苦しそう
どうしたことでしょう
大好きなしりとりの最中だというのに
み、み、み…
中には
青ざめた顔色になる村人までいましたので
クルミドの森の人々は
だんだん心配になってきました
そして、村人の一人が
ついに耐え切れず
こう、答えてしまったのです
み、みかん…!
あああー
「ん」がついてしまいました
村人のなかには
がっくりひざをつく人までいました
もちろん、しりとりの遊びで
さいごに「ん」がついたら負けというルールは
誰もがよく知っています
だからこそ
ポンカンやいよかんやマンダリンには
みんな気をつけていたのです
デコポン にいたっては
その品種名であるところの
しらぬひ の方を使うことが
自然とこの村のルールに
なっていたくらいでした
でも
「み」と言われてしまったら…
みかん村の人々にとって
「みかん」と言わないことは
自分の名前をなくしてしまうことのように
感じていました
「あ」といえば、「うん」というように
この村の人たちは
「み」といわれれば、「かん」と
口に出して言わずにはいられないのです
この対決は
おもわぬ形で決着がつきました
それからというもの
しりとりは
クルミド王一行の連戦連勝でした
たって、そうですよね
彼らはなにかあれば
オニグルミ
ヒメグルミ
ペルシャグルミ
しなのぐるみ
てうちぐるみ
てもみぐるみ
サワグルミ
って返すものですから
てうちぐるみは
ほんとは、カシグルミと同じですから
ちょっとずるいのですけどね
そんなことで
ついには、みかん村の人々は
この、遠く東からやってきた人たちに
すっかりかぶとを脱いでしまったのでした
(つづく)